INTERVIEWNov 18, 2015

山田あかね監督に訊いた 映画『犬に名前をつける日』後編

インタビュー後編では映画の制作エピソードと、動物愛護センターから引き取り、この映画の主演もつとめた山田監督の愛犬のハルちゃんについてお聞きします。
<インタビュー前編はこちら>


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今を全力で生きる犬。

──取材中で楽しかったことやうれしかったことは何ですか?

楽しいというか、いちばん気持ちが救われたのは、犬たちの明るい表情を見たときですね。センターの中ではとても悲しそうにしていた犬が、収容棟の外に出ただけで表情がパァっと明るくなるんです。「あ~助かった。あ~外だ!」って。その犬が、次に預かりボランティアさんのうちへ行くことになると、さらに「ここは安心できる!!」って明るくなるんです。

──環境でそんなに変わるんですか?

犬たちは“自分は生きられるんだ”ってわかると顔が変わるんですよ。それを見るたびに生き物ってすごいな、どんなにひどい目に遭わされても、今自分が貰った命を全力で生きようとするんだなって思いましたし、その姿に毎回感動させられました。

──過去をひきずらないんですね。

日々いろんなことを悔やむじゃないですか。なんでこんなに自分ばかりひどい目に遭うんだ、とかクヨクヨしたり(笑)。犬はそういうことないですからね。助かった!やったー!ごはんだー!うれしー!!みたいな。常に前を向いている。そこがいいです。

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──ほかにも楽しかったエピソード、何かありますか?

単純に私は犬が好きなので。取材でいろいろな場所へ行ったんですが、例えば栃木のシェルターには100匹以上の犬がいますからね。子犬もたくさんいますから。それは楽しいですよ(笑)。

──常にシビアな雰囲気なのかと思っていましたが、意外でした。

保護の現場はシビアですが、シェルターは助かった犬たちがいる場所なので、安心できるんです。

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福島県の被災犬たち。

──シェルターで保護されている犬といえば、福島県の被災犬のチビが印象的でした。

柴犬のチビですね。初めて会ったとき、田原さん(犬猫みなしご救援隊 副代表)に「そいつ、噛むから絶対近づかないように」って言われてたんです。やたらに吠えていました。

──犬も人間と同じように“悲しい”や“うれしい”といった感情をもっていますが、チビを見て、あぁ本当にそうなんだなって思いました。

もともとチビは、飼い主夫妻と福島原発20km圏内に住んでいたんです。避難指示が出て2人と別れて、シェルターに預けられた。チビは飼い主のおじいちゃんが大好きだったから、離ればなれになって精神が不安定になってしまった。でも、田原さんが丁寧に接するので、だんだん心を開いていったんです。私も、触れるところまでいきました。それは感動的でした。

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──おじいちゃんは体調が良くないので、数ヶ月に一度、「犬猫みなしご救援隊」がチビを面会に連れて行くんですよね。再会したときのチビの表情ったら!

同じ犬とは思えなかったでしょ?

──はい!! チビもそうなんですが、おじいちゃんもすっごくうれしそうで、犬だけじゃなくてやっぱり人にも犬が必要なんだなって思いました。

そうですね。おじいちゃんにとってもチビが支えなんですよね。

──ほかに、飼い主さんが仮設住宅住まいだから一緒に住めない犬もいましたね。

その方も高齢で一人暮らしです。そこに犬も住めればいい、それだけのことなのにね。

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──今、動物保護センターに犬や猫が持ち込まれる理由として、飼い主が高齢で亡くなる、病気で飼えなくなる、といったことが増えていますよね。ペットを飼うときに、飼い主の年齢を考慮しなければと思う反面、この被災地でのことを知って、お年寄りにとって犬の存在は必要なんだなと感じました。

高齢者と犬や猫の問題は大きな課題です。年をとって一人暮らしになった時、一緒に暮らせる犬や猫がいることは心の支えになる。でも、飼い主に介護が必要になったり、亡くなった場合、犬や猫の行き場がないため、殺処分になるケースが増えています。そういう時に受け入れてくれる場所ができたらいいと思います。私にとっても切実な問題です。

──そうですね。

そのために保護施設がもっと増えて、飼い主さんに何かあっても、犬のケアを安心して任せられるようになれば、解決できるのかなと思いますけどね。ドイツやイギリスはそうですよ。

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イギリスのシェルターは地域密着型。

──山田監督はイギリスのシェルターへも実際に行かれたんですよね。

はい。3か月間ボランティアとして働きました。

──イギリスと日本のシェルターではどんな違いがあるんですか?

イギリスはシェルター自体がたくさんあるので、犬や猫を飼いたかったら、そこから貰うのが自然なことになっています。逆に、もし自分が飼えなくなってしまったら、シェルター側で、次の飼い主さんを探してくれるんです。

──日本よりもシェルターが身近な存在なんでしょうか。

そうですね。あと、今は飼えないんだけど犬や猫との時間をつくりたい、遊びたいっていう人もシェルターに来ていました。短い時間でもそこへ行けば、犬の散歩をするというボランティアになりますし。

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──具体的にどんな人がシェルターへ来ていたんですか?

高校生から主婦、ビジネスマン、高齢の方まで、本当にいろんな方がボランティアとして働いていました。週に一度、1時間散歩するだけとか、時間が空いたからちょっと来てみたとか、とても自由なんです。

印象的だったのは、立派なビジネスマンタイプの男性で、散歩ボランティアをしていました。あるとき、彼がボランティア仲間の肩を借りて泣いていたんです。「なにがあったんですか」とボランティア仲間に聞いたら、「飼っていた犬が死んで悲しくてしょうがない。だけどすぐに次の子を飼う気にはとてもなれない。悲しいんだけど、人前で犬が死んだからと泣くわけにもいかない」って。それで、シェルターにいる人の前だと素直に「あいつが死んで悲しいと泣ける」と。尚且つ犬の散歩をすることで、気持ちが少し和らぐのだそうです。

──そういう人々を見ていてどう思いましたか?

シェルターは犬の命を救う場所なんだけど、同時に人間の心も救っていると思ったんです。そういう意味でも保護施設が、日本にももっとあったらいいなって思います。

──日本でも、人と犬とがより良いかたちで共存できる日が早く来て欲しいです。

あとクリスマスには、シェルターに人が集まって犬と一緒にいましたよ。

──へえ~!

イギリスではそういう場所になっているんです。ヨーロッパなどは、クリスマスに家族と一緒に過ごすのが一般的じゃないですか。日本でいうお正月のような感じですから。シェルターでも毎年クリスマスパーティーをしているから、犬や猫たちに小さなプレゼントを持ってきて、くつろいだりする人っているんですよ。犬と猫と過ごせば、ひとりぼっちのクリスマスも寂しくないんです。こういう場があるのは、すごくいいですよね。

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愛犬ハルのこと。

──映画にも出たハルちゃんについても教えてください。ハルちゃんは今何歳くらいですか?

4歳くらいだろうという予想です。うちにきたときが1歳くらいでした。

──山田監督が取材をされていた、千葉の愛護センターで出会って引き取ったんですよね。ハルちゃんはどんな性格ですか?

非常におとなしくてかしこいです。従順ですね。最初ちょっと臆病でしたが今はそんなことないですね。

──ハルちゃんと山田監督は、どんなことをして遊ぶんですか?

ハルはわりと身体能力が高いんです。カンガルーの血が入っているんじゃないかってくらい(笑)、飛ぶんですよ! 窓のサッシあたりまでは軽々飛べちゃうし、私が脚を上にあげると飛びます。本当にハルは飛ぶのが好きみたい。

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──アクティブなんですね。

ドックラン以外で犬を自由にさせる場所がないので、思いっきり走らせることがなかなかできないのが残念です。

──山田監督にとってハルちゃんはどんな存在でしょうか。

人生の最高のパートナーですかね。

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──どんなところが好きですか?

いつも私に対する全幅の信頼を寄せてくれて、私が帰宅するだけすごく喜んでくれるし、ごはんは手作りしていますが、美味しそうに食べてくれる、そういうところは好きですね。
それと毎朝私が起きそうな気配を感じるのか、いいタイミングで、ベッドに乗っかってきて、手で起こすんです。

──それって教えたわけじゃないですよね!?

ハルには基本的な「座れ」と「待て」以外、あまり教えていないんです。心が通じ合っているから、それだけできればまぁ困らないかなって感じでしょうか。

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──“心が通じ合っている”って言葉、いいですね。ではそろそろ終盤ということで、映画の話で締めさせていただきますね。『犬に名前をつける日』、どんな人に観てもらいたいですか?

犬の保護活動に興味のない方にもぜひ観てもらいたいですね。あと、「犬は好きだけど、犬の悲しいシーンは見たくない」という方にも観てもらえたらと思っています。つらい場面もあるんですが、観終わった方に「最後に希望をもらった」と言われるので、怖がらないで観て欲しいです。

──大の犬好きで、さまざまな犬の現場も見てきた山田監督ですが、これから犬のボランティアをしてみたいという方にアドバイスをいただけますか。

無理しないでやることが大事だと思います。殺処分という現状がひどいからと、何かしなければって思うのは大切ですが、自分にできないことをやると結果的に破たんしてしまったり、無理して犬を預かって返って犬も人も困った状態になってもいけません。まずは、自分ができる範囲の中で始めたらいいと思います。と言いながら、「犬猫みなしご救援隊」の中谷さんみたいに、普通は「無理だろう」と思うことを成し遂げてしまう人もいるので、そうとも言えないんですが。でも無理しないことが大事です。

──山田監督、ハルちゃんありがとうございました!

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INFORMATION
『犬に名前をつける日』
シネスイッチ銀座ほか全国順次公開中
監督・脚本・プロデューサー:山田あかね
主題歌:ウルフルズ「泣けてくる」
音楽:つじあやの
出演:小林聡美、渋谷昶子、ちばわん、犬猫みなしご救援隊、上川隆也
配給:スールキートス
公式サイト:http://www.inu-namae.com/
(c)スモールホープベイプロダクション


interview, edit Tomoko Komiyama
photo Jun Takahashi

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